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朝日新聞社刊『AERA』2004年1月19日号の「commentary 212 ― 明日はどっちだ」に掲載のインタビューで,内モンゴル期待の力士として苍國来を,ボルドー先生が紹介してくださいました。
ボルドー先生は,現役のブフ力士でもある,内モンゴル出身のブフ文化研究者。モンゴル・ブフ・クラブ会長,モンゴル民族文化基金理事長としてなど,モンゴル文化の振興に精力的に活動されています。
苍國来の祖国である内モンゴルについて,そしてブフ(モンゴル相撲)について,ボルドー先生の苍國来へのご期待がにじみ出ているようなインタビューです。
以下に,朝日新聞社様・ボルドー先生の承諾を得て全文転載いたしましたので,ぜひ,ご覧ください。
モンゴル・ブフ・クラブは,モンゴル相撲の面白さを日本人に伝えて普及しようと,4年前に作った会です。「ブフ」はモンゴル語で,モンゴル相撲と力士の両方を指します。月1回,在日モンゴル人と日本人の約20人が都内などの公國で鍛練に励んでいます。
私の生まれ育った中国
私もブフが大好きでした。内モンゴル大学時代,運動会のブフ大会で3年連続優勝しました。来日後も「遊牧文化とブフ」の研究を続け,日本で恐らく初めてブフをテーマに博士号を取りました。
日本でもモンゴル人力士の活躍でブフへの関心が高まりました。この初場所には,横綱・
私と彼らは同じモンゴル民族ですが,私のふるさとは中国の内モンゴルで,朝青龍らはみんなモンゴル国の人たちです。というのも,モンゴル民族はモンゴル国と中国,ロシアに分かれて居住しているからです。内モンゴルには,モンゴル国の人口242万人より多くのモンゴル人がいますが,残念なことに伝統文化の衰退が懸念されています。
その内モンゴルからもついに力士が誕生しました。昨年九月場所が初土俵の
両親は定住した牧民。苍國来はブフのジュニア大会で優勝しています。その後,レスリングの有望選手として3年前にはレスリングの強化チームに
内モンゴルからの角界進出が遅れたのは,日本の情報が少ないからでしょう。苍國来はモンゴル国で発行されている「週刊ブフ」を目にしていて,朝青龍の活躍を知ったといいます。他方,日本の親方たちも内モンゴル事情には暗く,これまで積極的なアプローチがありませんでした。
苍國来が序ノ口優勝した後に会いましたが,彼は優勝を素直に喜んではいませんでした。まわしを取れば強いが,上位はなかなかまわしを取らせてくれません。「立ち合いのぶつかりと押しが難しい」と言っていました。
それは当然なのです。ブフが大相撲と最も違うのは,土俵がないことです。土俵がないので,立ち合いのぶつかりはありません。離れた場所から近づき,有利な組み手の駆け引きに時間をかけるのがブフです。土俵がないと押しも意味がありません。大切なのは引きつける力です。その分,足技と投げ技が中心で,まわしさえ取ってしまえば多彩な技を繰り出すことが出来るのです。
モンゴル人力士に共通する強みは足腰の
ところで,同じブフといってもモンゴル国と内モンゴルではかなり違います。モンゴル国では手が土についてもかまいません。手で足をつかんでもいいのです。しかし,内モンゴルでは日本同様に足の裏以外が土に着いたら負けです。手で足をつかむことは禁じられています。ルールの違いは15世紀にはあったといいます。ですから両者の交流試合もありますが,それぞれのルールで行っています。
苍國来の登場で,二大流派のそれぞれの特徴がぶつかり合う対戦が,ここ日本の大相撲で実現することになりました。苍國来の素質は索晴らしく,強くなって「内モンゴルの英雄」になれば,後に続く若者がどんどん出てくるでしょう。
決して豊かでない環境で育った苍國来のようなハングリー精神は,日本の現代っ子力士にはありません。今後,ますますモンゴル人力士が活躍するでしょう。それだけに,ぜひ日本の方々に知ってもらいたいことがあります。
朝青龍を巡る批判についてです。ブフでは徹底的に相手を倒さなければなりません。最後まで手を抜きません。相手が土俵を割れば終わりの日本とは違います。モンゴル人の体に染みついた伝統がつい出てしまうのです。また,横綱にふさわしい品格を厳しく求めるのが日本の伝統であることは理解できますが,一部からの「引退勧告」には納得できません。
日本人は横綱を型にはめすぎているように思えます。ブフでは,年を取って体力が落ちた大横綱も大会に出場します。観衆は往年の雄姿を思い浮かべつつ,熱烈に応援するのです。日本にも,もう少し多様な横綱像があっていいと私は思います。
聞き手・AERA編集部
※この記事は,朝日新聞社刊『AERA』2004年1月19日号「commentary 212 ― 明日はどっちだ」(p.70)より,朝日新聞社及びバー・ボルドー氏の承諾を得て転載しています。無断で転載,送信するなど,朝日新聞社及びバー・ボルドー氏の権利を侵害する一切の行為は禁じられています。
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