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既報のとおり,この平成22年九月場所をもって新入幕を果たした蒼国来。その蒼国来の入幕を喜んでいただく方が,ありがたいことに,かくも大勢いらっしゃいます中,とりわけうれしさひとしおの方がこちらにもお一人。
荒汐:いやぁおかげさんで,なんとかこう。
寺谷:ほんまやな。おめでとう。
荒汐:今でもハッキリと思い出しますよ。私が(時津風)部屋を出てこの部屋を興すと決めたときのこと。
寺谷:そうか。先々代(時津風親方,もと大関豊山)とは,向こうは農大相撲部,こっちは関大空手部ということで,大学時代に知り合って(学生闘争真っ只中,その対策に運動部を使おうとしてたらしく全国から部長級が一同に集められたことがあって。結局何もさせられなんだけど。)以来の仲で,まぁ長い付き合いやねんけどな。
荒汐:ええ。それで時津風部屋の後援会長まで務められていた。なのに,私が部屋を出ると決めたら「そうか。だったら俺も出る。」と言って,時津風部屋後援会からも引いてしまったんですよ。
寺谷:せやったな。
荒汐:「ただし,わしの目の黒いうちに関取出せ。そして幕内力士を。」そう言われたんです。その時の目をこれまで忘れたことはありませんよ。
寺谷:そうか?あのときは,まぁタイヘンなことやから,ハッパかけてやろう思ってな。
(写真:寺谷さま〈右〉と現役時代の荒汐=大豊)
―そんな,深そうなお二人の繋がりですが,そもそもの馴れ初め(?)は?
寺谷:いつやったかなぁ,もう髷は結ってたな。大阪の宿舎が東成に移ってからのことやな。
荒汐:はい。兄弟子に紹介してもらって,それから。以来,会ってる時間からすれば,もう肉親とより長い付き合いですよ。
寺谷:せやけど大豊は変わった奴やったで。今もやけど。コビを売ったりとかそういうことは一切しないんやけど,豪快なところがあって,まぁ気持ちい相撲とりやったな。しっかし大きかったでぇ。150~160キロはあったんとちゃうか。ただ,怪我が多くて苦労したな。引退して部屋の親方になってからは,稽古場に親方衆がずらーっと並んで,あーせぇ,こーせェ,よってたかって好きなこと言ってる中(大部屋で,ここは「年寄部屋」か,とか言うとったな),荒汐さんは奥で黙ーって座ってるだけやったけど,ものすごい眼光ですごい迫力,存在感はそりゃあ凄かったよ。
(写真:寺谷さま〈中央〉と引退してスリムになった頃の荒汐〈右〉)
―それが独立することになって,
寺谷:最初はえらい苦労しはったで。そりゃもう気の毒なほど。
荒汐:マイナスからの出発でしたから。仕切り線からの立会いじゃなくて,仕切り線もないところから。弟子もいないし,当然誰もそんなことできるわけないと思ってたんじゃないですか。
寺谷:うん。最初の大阪でも,工場の跡地に土俵作って,うちの離れで寝て,ちゃんこを作らなきゃとなっても,何もないから道具屋街で,箸1本からそろえて,普通の台所で作ってな。おかみさんも荒汐さんも必死やったで。
荒汐:そうでしたね。そりゃ,大部屋の宿舎とは何もかも違ったでしょう。
寺谷:せやな。時津風部屋の時は,ウチは砂糖屋やから,八王子神社に皆がくるとまずいつも砂糖を30kg,その大きな袋2袋もっていってた。ちゃんこ長が,なんや嬉しそうに「ごっちゃんです」言うねんけど,こないぎょうさんどないすんねん?思てた。そしたら20日もしたら「無くなりました」言うてきよんねん。
荒汐:ああ,あれね。あの頃は,ちゃんこが今よりずっと甘かったんですよ。山ほど砂糖入れてましたから。ソップ炊きとかね。醤油とガラと砂糖をたっくさん。それで野菜を煮たスープは,栄養がたくさん含まれてるから,ご飯に掛けたらそれだけでなんとかなりましたね。
寺谷:下の子は,全然,具みたい食べられヘなんだもんな。
荒汐:ええ。大部屋はまず稽古時間が長いんです。起きて食べないで3時,4時から自分らの稽古して,関取を待って,風呂が11時,ご飯は2時ごろまで食べられません。そんな間,元気にやっていくには,やはりどうしても糖分が不可欠なんです。そんな理由もあって,ちゃんこに砂糖をたくさん使ってたんだと思います。実際,私もほとんどスープとご飯しか食べられませんでしたが,年10kgはラクに太れてましたよ。
寺谷:あぁナルホドな。砂糖を何にこないぎょうさん使うんか不思議やったけど,ちゃんこね。確かに砂糖は疲労回復には不可欠やからな。合成の甘味料では疲労は回復しない。小さい頃,くたびれて遊び疲れて帰ってきたら,母が砂糖水を作ってくれた。それ飲むと何分もしないうちに元気になってるんやね,不思議なくらいに。それでまた泳ぎに出かけてしまう。そんな記憶もあって,砂糖でいっちょ商売してみようと今の寺谷商店を興したんです。ちょうどあの頃は,インスタントコーヒーのはやりかけで角砂糖もえらく売れてた。デパートでバイトして市場調査してな。それで角砂糖の時代やとわかったんやけど,ノウハウがわからん。それでまず会社に就職して商売を勉強しながら,グラニュ糖を固める方法とか,それとここがミソやったんやけど,いろんな形にしてな。今でもちょっとひと工夫あるちゅうことで,まだ買うてもろてますわ ― もっとも,砂糖は太るとか無根拠なデマですっかり砂糖が悪者にされてしもうて(参考図書:『「砂糖は太る」の誤解―科学で見る砂糖の素顔』高田明和著,ブルーバックス,2001),砂糖にキビシイ時代ではあるけれど・・・―。それ以来,小さい会社ですが,ホンモノの砂糖で勝負する,ギフト商品をご提供させてもらう寺谷商店でやっております。
荒汐:じゃあ,ちょっと会長にお願いです。力士も塩しか稽古場にはないから,サッと稽古中でも糖分を補給できるようなサプリとか開発してくださいよ。角砂糖じゃ具合悪いし,ドリンク類では摂取した量がよくわからないし・・・
寺谷:はい,開発します。力士は塩を舐めて,というイメージやけど,砂糖が無いと体も頭もまわらん。力士も頭をつかうからな。わしも空手やっとったからわからんではないねん。頭使わんと強くなれへん。やっぱり砂糖は大事やな。
荒汐:よろしくお願いしますよ。
―最後に蒼国来について
寺谷:ほんまにエエやつでな,やさしい子やで。いや,今はこんな立派な幕内力士になって,もう「子」とちゃうな。せやけど,内に秘めてる闘志というのかな,そういうところはものすごい。せやから,蒼国来はもうちょっとポンポンとあがるものだと思い込んどったところがある。それが,怪我したり,大事なところでまけたりで,一時は,こいつホンマに大丈夫かと思ったこともあった。いや,(関取まで)上がらんとは思わなんだよ。ほんまに。けど,やっぱり心配したで。それがこうして10場所かな,連続で勝ち越して,きちんと幕内まで上がってきたのは,さすがやと思う。本当におめでとう。そして親方,わしの目の黒いうちに関取を,幕内力士を出してくれて,ほんまに何より嬉しい。おめでとう。
荒汐:ありがとうございます。こうなったら,少なくともあともう一人幕内を出して恩返ししたいです。今後ともどうぞよろしくお願いします。
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