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蒼国来:平成30年九月場所に向けて

今年三月場所12日目からの休場(右リスフラン関節脱臼骨折,右楔状骨骨折)以来,土俵外での怪我療養という孤独な戦いが続いている蒼国来。先場所は全休となり,多くの皆様からご心配,激励の声をお届けいただいております。お盆も明けて,九月場所に向けて角界がどっとまた動き出す今,蒼国来に現状と展望を聞きました(聞き手:早川さま)

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最近,会う人,会う人から「思ったより元気そうで何より」って言われるんだけど,それってつまり「蒼国来は落ち込んでるんじゃないか?」と思われてるってこと??? 私は元気ですよ。とにかく前向き。何事も,前を向いて。

来場所はもちろん幕下に落ちるでしょう。現実は現実として受け止めています。怪我なんだから仕方がない。落ち込んでいても仕方がないでしょ。しっかり治すことに専念して,あとは出来ることに集中する。「こうなったから,あれを変える」って,いちいち何かを変えていたら,相撲はぐちゃぐちゃになってしまう。どんな状況でも自分のスタイルを変えないこと。心技体の「心」がブレないこと。やっぱり相撲は「心」が一番大事だと,長年やっていて思います。

確かに,長年関取としてやってきた力士が幕下に落ちて,それを機に引退する人もいます。それはそれで分かります。私も新十両昇進(平成22年1月場所)してから,ずっと「関取」って呼んでもらっていましたからね。惨めなんじゃないか,辛いんじゃないか,苦しいんじゃないか・・・他人はいろいろ想像することは出来るけど,本当の気持ちは経験した人にしか分からないじゃない。そりゃ,自分から望んで落ちるものではないけど,人は苦しい経験から学ぶことが多くあることを知っています。私の相撲人生もいろいろあったからね(笑)。だから今は前向きに捉えています。この厳しさも相撲の現実。それを肌で感じることで,同じ経験をした人の気持ちが本当に分かるようになるんじゃないか。自分が更に成長出来るんじゃないか,とね。

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幕下に落ちたら,当然付け人もいない。私も自分の廻しを風呂敷に包んで,自分の身支度をして場所に向かう訳です。でも,これまで付け人がいても,出来るだけ自分が出来ることは自分でやるように意識していましたから,あまり違和感はありませんよ。私は入門前に内モンゴルでレスリングをやっていた頃から親元を離れて暮らしていましたので,それが当然だと思っています。だから,付け人にいろいろしてもらって当たり前,ではいけないと思っていた。感謝しないと。彼らは私が相撲に集中出来るようにサポートしてくれる,有難い存在なんだから。

私も下の頃は付け人をやっていましたけど,当時は無茶苦茶な要求をする関取もいましたよ。随分と時代も変わりました。オジサンみたいな言い方だけど(笑)。その頃私は,自分が関取に上がったら,自分がされて嫌なことは,絶対にしないと決めた。付け人だって頑張ってる一人の力士だし,力士の前に人間なんだから。

私,新弟子の頃,隅田川の脇で暮らしていたホームレスのおじさんと仲良くなったことがあるんですよ。声を掛けられて,いろいろ話を聞いていたら,面白いの。たぶん年齢的には60代だと思うけど,どうして家を無くしてホームレスになったのか,家族とはどうなったのか。山あり谷ありの人生。会う度に何でも話してくれてね。当時まだ私は日本語があまり出来なかったので,随分と日本語の勉強にもなりましたよ。当たり前のことなんだけど,地位が高いとか低いとか,それだけで人間を判断してはいけないと思った。あのおじさん,あれからどうなったかなぁ。

昔使っていた(幕下以下が付ける)廻しはもう古いし,サイズも合わないので,新しいのを用意します。新しい廻しで,新鮮な気持ちになっていいじゃない。怪我が治れば,という気持ちは当然あります。まだまだやり残したこともある。このままでは悔いが残る。この気持ちが消えないうちは,まだまだ頑張ります。

足の状態はまだ腫れがあるけど,もう松葉杖も無しで歩けるようになりました。もちろん九月場所には出場します。とにかく前向きに頑張っていきますので,これからも応援よろしくお願いします。

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