■若隆景: そんな自然な流れもあってか,いずれにしても進路として相撲を続けることは自然に決まっていました。
大相撲からは,他の部屋からの誘いも部を通じてはあったみたいですけれど,現実的には荒汐部屋しか考慮していません。というのも,荒汐親方には小さいころからお世話になっていますので,大相撲のほうに入るならここしか考えていませんでした。
■大波: あれは何歳ごろだっけ。
■若隆景: 小3のときですね。
■大波: みんなで部屋に来たんですけど,「渥はまだ小さいから迷惑かけるでしょ」ってことで一人だけ泊まれなくて,ボクも泊まりたいよう!って泣いてたんですよ。
■剛士: その話になると,おかみさんが「港くんは,ずーっと部屋の角で壁に向かって小さく座って一人で漫画かなんか読んでたのよ(爆笑)」って,なにかとその話題にしてくるんですよ。これ,そんなに面白いですか。
■大波: 3兄弟の中では,港だけがインドア派で,こっち二人はアウトドア派だからね。
■剛士: そうそう。別に三人仲が悪いわけじゃなくて,特別いいってわけでもないですけど,これが普通です普通。
■大波: そう。こっちは「三人で行こ!」って誘うのに,港だけ来ないんですよ。いっつも。小さいときも,「お菓子買いに行こ」って呼んでるのに,「俺はいかなーい」って。
■若隆景: 「トラック事件」もありましたね。
■大波: あったあった。あの時は,えっとまだ小学生のころ,俺と渥とで「近所のコンビニに行くよ」って誘ったら,珍しく港が「待ってよー!僕もいくー」って自転車で追いかけてきたんですよ。
と思ったら,「バンッッッ!!!」って轟音がして,振り返ったら,そこにはぐっちゃぐちゃになった自転車だけが転がってて。
あれ?って思ったら,向こうのほうに港が吹っ飛ばされて転がってた。トラックに思いっきり跳ねられたんです。打ち所が良かったみたいで本人は「いててて」だって。
あれはウけた!
■剛士: 笑い事じゃないですよ。なぜか災難は自分ばっかり。ちっちゃいとき軽トラックの荷台に乗ってた時も,大波さんが荷台の側面のパネルにもたれかかってたから,気持ちよさそうだな,僕も,って後ろのパネルにもたれかかったら,ちゃんとロックされてなくてそのまま開いちゃって,ゴロゴローって落下。
■大波: 突然視界から消えた! ニャハハハ!
■剛士: だから笑い事じゃないですよ。
■若隆景: あと,「大波日本昔話」も。
■大波: 覚えてるの? 三人一緒に寝てたんですけど,二人がなかなか寝ないから,寝かしつけてあげようと思って,毎夜毎夜,くっだらないつくり話「大波日本昔話」を聞かせてたんです。
■若隆景: で,いっつも剛士さんが泣かされる。
■剛士: また自分の話ですか?
■大波: TVで狼の遠吠えで始まる,なんか怖い音楽の番組があって,その曲を歌うと港がこわくなって寝れなくなるんです。こっちはもうおもしろくって半べそかくまでしつこく続ける。
■剛士: ばぁちゃんが助けてくれるか,母親に叱られるかまでそれが続く。酷いですよ。ていうか,今日は若隆景がメインなんじゃないですか?
■大波: そうだった。若隆景のエピソードといえば・・・。
この前,喫茶店で聞こえてきたラジオで「三兄弟アルアル川柳」っていうのをやってたんですけど,
「三男の お菓子を食べて 切れられる」
って聞いて,思い出して思わずコーヒー噴き出してしまいました。
小学校のころ。渥,凍らせたポッキーが大好きだったんです。その日も冷凍庫には渥のポッキーが入ってました。学校から帰ってきたら何故かそれを俺が食べちゃったんです。怒るだろうなぁってわかってたんだけど,なぜかペロッと食べちゃった。
そしたら渥も帰ってきて,楽しそうにルンルンで冷凍庫に直行。ガッって扉を開けたら「あれ!ない!どこ?どこ?」って言ってるから「食べちゃったよ」って。
そうしたらもうブチ切れですよ。胸ぐらつかまれて「返して!返して!」って。こっちもすぐに買いに行けばいいのに,なぜか1時間くらい買ってこなくて,その間ずっと付きまとわれて罵声をあびせられ続けました。あんなに長時間激しく誰かにキれられたのは,経験したことがありません。
■剛士: なんて酷い兄なんでしょう。
■大波: いやいや,違うよ。楽しませよう,なごませようって思っての気遣い。三人力をあわせてね,という気持ちだよ。ほら,新しい四股名にもそういう願いがこめられてるでしょ。っと,自然に四股名の話にもっていくのもまた気遣い。四股名,説明して。
■若隆景: 自分の四股名はたいへん気にいっています。親方につけていただきました。「若」は,祖父(若葉山)と父(若信夫)の四股名から,「隆景」は毛利三兄弟の三男・小早川隆景からです。
■剛士: というわけで,自分も毛利三兄弟から次男・吉川元春にあやかって,若元春(わかもとはる)とつけてもらいました。
■大波: 同じく,長兄・毛利隆元から,若隆元(わかたかもと)となりました。三兄弟の父・毛利元就の「三本の矢」の逸話どおり,三人で支えあい鍛えあいなさいとつけて下さいました。親方は「私の独断と偏見で決めさせていただきました!」って宣言してましたが,字面も雰囲気も三人それぞれにぴったりで気に入ってます。
■剛士: とくに隆景って,ちょっと言いにくいところもいいでしょ。相手も「今日の相手だれ?」「わかたかたかかか」とうまく言えない自分に気づいて,過度に緊張している,という自己暗示がかかるでしょう。
■大波: 誰が誰かをわからなくするかく乱効果も。「今日の相手だれ?」「若隆元」「たかもとって大波の何番目?」「たかもとはるが一番上だから・・・」「違くない?」と,三人のうちの誰が出てくるか,直前までわからない,みたいな。・・・ないか。
あ,そろそろ締めましょうか。抱負をどうぞ。
■若隆景: プロになったから自分の相撲を変えたりとか,そういう考えはありません。これまでどおり,中に入って食いついて食いついていく相撲を続けて磨いていきます。親方からもそう言ってもらいました。まずはとにかく幕下に上がってからの勝負だと思っています。
■三人: 大きな目標は同じ。一日も早く,角界初の三兄弟同時関取になれるよう,そして,三人揃って三役に!を目指して精進していきます。