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平成23年十一月場所 新弟子検査

2011年11月4日(金)福岡市内の病院で新弟子検査(第一検査)[関連記事: 新弟子検査のすべて]が行われ,荒汐部屋から飛彈野(ひだの)大波(港:おおなみ・みなと)が受験しました。

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荒汐部屋の新弟子検査は,毎回,師匠同伴が伝統。師匠にとって,新弟子が入るこの瞬間ほど気が引き締まると同時に嬉しいときはありません。今回も先導は行司の式守一輝。まっさらの下駄の履きなれない音を響かせながら会場へ。

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会場の病院に到着。今回の二人はご覧のとおり体格は大きく,ともに身長173cm・体重75kg以上の基準をクリアしているので,検査は身長体重の確認と健康診断だけです。健康診断のうち,血液検査などの時間のかかるものは,今回は事前に行ったので,今日は体格測定だけで終わりそう。二人の表情にもただ嬉しさだけが。

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会場に着くなり,記者の方からアンケート用紙が渡されます。これもずっと続く恒例。その内容は月刊『相撲』12月号九州場所総決算号(ベースボールマガジン社より11月末発売予定)でご覧下さい。大波(港)「え?得意な科目って言われても・・・給食しか思い浮かばない」そんな弟弟子の対応をやや心配そうに見つめる式守一輝。

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そうこうしてると,着物を脱いで測定の列に並ぶよう告げられます。といっても,今場所は荒汐部屋勢の2人を含めて3人だけでした。

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五十音順で,まず大波港(おおなみみなと)。183cm,125kg。名前からお察しのとおり,大波渡(おおなみわたる)の弟。福轟力,大波に続く,学法福島相撲部出身です。

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続けて飛驒野幹人(ひだのみきと)。176cm,105kg。幼少より取り組んだ水泳の賜物がこの骨格。肩を上げているわけではありません。

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体格検査をパスした後,続けて,筋力や視力などを測定します。ここで驚きは,さすが水泳経験者の飛驒野,肺活量は軽く5700ccをオーバー(成人男子平均は4000強)。さらに驚くことに大波は肺活量計の最大値6000ccを超えてしまいました。

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そんなこんなで力を出し切ってしまった後に血圧を測ったので,オカシナ値が出て焦る大波港。

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医師による健康診断の後,プロフィール写真の撮影。飛驒野。

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そして大波港。四股名が兄とかぶるので,荒大波を予定。

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ひととおりの検査が終わると,記者さんたちに囲まれてインタビュー。飛騨野の場合,だいたい以下のような話題でした。

―入門の動機は? 「高校を辞めてから,しばらく特に何もしないで,TVをよく見ていたんですが,やけに相撲のニュースが多くなってきたので気になって。」

―え?正直なところ悪いイメージのニュースが多かったと思うのですが。 「はい。ただ,あまりにも悪い話ばかりなので,逆に,ちょっとこれは自分で確かめてみるべきじゃないかと考えるようになりました。」

―ただ,そうは言っても,そこから実際に入門するっていうところまでは距離があったんじゃないですか? 「とりあえずネットで各部屋のホームページを見てみました。そうしたら荒汐部屋のサイトが詳しかったので,とりあえず体験入門してみました。サイトに何が書いてあっても実際は入ってみないとわかりませんし。」

―体験してみた感想は?「妙なまでに優しい人たちだな,と思いました。もっと恐ろしい雰囲気をイメージしてましたので。」

(報道としては,「県出身力士誕生へ 富山市の飛彈野さん、新弟子検査体格基準を通過 - 北日本新聞(2011-11-05)」など)

という感じで,今年8月中旬に3日間,体験入門に来ていた飛騨野。話を聞くと,高校を辞めてから特に何をするわけでもなく,4年くらいTVを見ながらどうしようかなぁと思っていた毎日だとのこと。何をしようにも選択肢が多すぎるのが現代社会。ただし「力をためる」というのはまさに飛騨野のようなことで,その間も水泳は続け,身体はスイマー然とした肩幅もあってがっしりしたもの。これだ!とピンと来たその瞬間に長らくの沈黙を破り一気に入門まで突き進みました。

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一方,大波港にも大勢の記者のみなさんが。気さくによく話す飛騨野とあらゆる意味で対照的。

―入門の経緯は? 「・・・。おじいちゃんが元小結で,父も力士でしたので,自分も。」

―目標は? 「・・・。祖父の若葉山の最高位が小結なので,それが。業師って感じの相撲でカッコよかったです。」

―学法福島出身ですが被災して大変なのでは? 「はい。・・・。震災後も校庭の土を削って除染したり,余震があったり・・・」

―地元のみなさんに何か 「・・・。今はまず,粘り強くしっかり稽古に取り組んでいくだけです。」

(報道としては,「元小結若葉山の孫・大波港が新弟子検査 - ニッカンスポーツ(2011-11-04)」など)

あまりに多い選択肢に戸惑った飛騨野に対し,大波港はほぼここまで選択の余地なく相撲の道を一直線に歩んできました。しかし定められた道をまっすぐ歩み続けるのもまた,並大抵のことではありません。ここまでそれを成してきたのが大波港。その証拠に,その相撲の実力は相当なもの。すでに稽古場では大波や福轟力らと真っ向からぶつかって相撲を繰り広げています。

もっとも,これまですでにたびたび荒汐部屋に寝泊りして,稽古もいっしょにしていたので,部屋の面々にとっては,もうなじみの顔。いよいよこの部屋の正式な弟子になったんだな,という感覚です。

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そうして新弟子検査が終わると,師匠もお楽しみのごちそうタイム。「普段の検査は,終わるのが15時くらいだから開いてるお店を探すのに難儀するけど,今回は早くて助かったわ。今日はお祝いだから,二人ともどんっどん食べなさい。飛騨野は祝杯にビールでもどうだ。」

お刺身定食を各自2人前に続け,あれこれまさに吸い込むようにパクパクいただきました。ラーメンを二口ですすり終えると評判の食べっぷりは伊達じゃない。

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飛騨野は加えて食後にビールをジョッキでガブリと一口。満腹にいたるは,お昼のオーダーストップに阻まれたものの,この後さらに後援者の方に連れて行ってもらってご馳走になったそうです。それにしても冬の福岡はお魚がおいしいですね。

さて,こうして終えた新弟子検査。初日に無事合格が発表されました(前相撲は3日目8:30頃~)。産まれながらの力士大波港と,数多の道から荒汐部屋での修行を選んだ飛騨野。ここまでの道は違えど,これからの運命はともにテオス・アナイティオス(神に責なし),自らの手で選び拓きます。荒汐部屋の飛彈野と大波港の,その成長をどうぞみなさま末永くお見守りくださいませ。

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