ヤバいっすよ。全然ダメっすよ。今場所っすか?一つっす(差し違え)。えっ?今場所トータルで95番くらい裁いてるから,94勝1敗と考えれば立派な成績じゃないか,って?そんな慰め,いらないっすよ。行司の差し違えゼロは最低ライン。一つでもやったら最低以下っす。
えっ?最近,式守一輝が習字の腕をメキメキ上げてるってのが世間のもっぱらの評判ですって?ありえないっすよ。まだまだダメダメっす。ダメなんで,兄弟子に頼みこんで教えてもらってるっす。行司の世界には力士みたいに一門とかそういうのないんで,自分が惚れ込んだ兄弟子に教えて下さい!って,頭下げていくんです。結婚してる兄弟子なんかには,自宅に押しかけて教えてもらいに行くんすから,兄弟子にとっちゃ~自分は相当,ウザいでしょうけど。平身低頭,頭下げまくって兄弟子に技を教えてもらう。それが行司の生きる道なんです。
もう今場所はもう恐ろしくて,恐ろしくて。常川の不気味な足音が・・・。
同じ富山出身の常川に,自分が教育係になってて,相撲のことから生活のことからいろいろと教えています。ですので,常川には負けるわけにはいきません。いずれ常川が稽古場で相撲を取るようになっても,稽古場で何番やってもずっと勝ち続けるくらいの実力でいたい,と思っています。
それが,こっちが最高位で全然勝てなくてモタモタしてる間に,常川は4勝2敗で勝ち越して・・・。もし5勝したら,これはヤバい,一場所で常川に番付抜かれるのか?と。もしここで抜かれたら,これまでの一年半は一体なんだったんだろう・・・。入門してから,自分なりに必死にやってきたこの一年半が根底から否定されかねない・・・。かなり恐ろしい状況でした。
これまで自分の場所を歴史に例えて振り返ってきましたけど,この間廣瀬さんから,「そろそろ『歴史の飛騨野』も一年続けたし,それに最近は例える時代がループして二番煎じになってきたから,一年を区切りにイメチェンした方がいい」って言われまして。そんでもって「今度は『俳句の飛驒野』にしよう!」って言われました。えっ?突然「俳句の飛驒野」にイメチェンだ~って無茶ブリされても・・・。
えっ?ぜひ一句お聞かせあれ,ですと?う~ん,そうですねぇ。ま,今ここでの思いつきですが。
五月雨を 名古屋にまつる 日本晴れ 作:飛驒野幹人
この句は,作者の現在の心境を季語:五月雨に重ねています。来場所の名古屋場所で雨は上がり,晴れやな心になって欲しいとの願いを詠っています。(解説:飛驒野幹人)
今場所は,場所中に関取に稽古をつけてもらったことが印象に残っています。突然,関取にやるぞ!って言われて,初めて関取と三番稽古しました。って言っても,勝てるわけないじゃないですか。土俵際まで寄られて,あ~,これはもう何をしても無理だ~と思っていたら,そこから土俵の外に出されるんじゃなくて,ぐーっと土俵中央まで引き戻されました。さぁもっと頑張れ,と。もう,大人と子供の相撲です。体の大きさ的に言えば,まぁ自分の方がアレなんですが・・・。
関取の体は,上半身が柔らかくて,下半身ががっちりしています。こっちが当たっていって,お!ちょっとは押せたかな?と思ったら,ただ上半身がぐにゃとなっただけで,下半身は一歩も動いてませんでした。
料理の方は,内海さん(荒獅子)のを見て覚えてる段階です。自分は作ると言っても,内海さんの作った料理の残りをちょこちょこっとアレンジしてるだけ。例えば,昼のちゃんこで作った一品料理の余りを,夕方のちゃんこでちょっとアレンジして別の料理にして出す,みたいな。やっぱり残ってしまうのは,もったいないじゃないですか。内海さんを見てると,なるべくちゃんこ銭を安く抑えながら,量と栄養バランスを考えて手際よくささっと作っています。新しい物を作る時はクックパッドで作り方調べて。その辺り,やりくりを考えて日々料理するのは,相撲部屋も普通の家庭も同じだと思いますよ。内海さんにはやりくり上手な,主婦の知恵が詰まってるって感じです。一家に一台,内海さんはお勧めです。
序ノ口デビューの場所は・・・緊張しました。とにかくキンチョー,きんちょーで。(そういう新弟子・常川のインタビュー姿をじーっと見つめる,蒼国来関。)
(蒼国来)「常川!最初の場所は『すり足を覚えました。』の一言でいいんだよ。次の場所は『腰割覚えました。』その次の場所は『四股覚えました。』これでよし。」
あ゛っす。(翻訳:ありがとうございます。)
生活に関しては,最近,電話番にちょっとだけ慣れてきました。というか,ちょっとだけ緊張しないようになってきました。これまでは電話が鳴る度に心臓が,バク!バク!バク!ってなったのが,最近はバク!バク!くらいに下がりました。
(ここで打ち上げ会場のお客様がビール大ジョッキ片手に参入)
(お客様)「あのさぁ,一つお願いがあるんだけどぉ。電話でる時ぃ,明るーく出てよね。あたしみたいな1ファンが相撲部屋に電話するのってのはさぁ,かけるこっちも結構緊張するもんなのよぉ。」
あ゛っす。(翻訳:あー,そういうもんなんですか。)
(蒼国来)「常川!お前電話出る時はねぇ,『はい荒汐部屋です』って低い声で出るんじゃなくって,『ハイ!アラシオベヤデス!』って,高い声で出ればいいんだよ。」
あ゛っす。(翻訳:はい分かりました。)
おしまい