荒汐部屋では入門から引退後まで,相撲道修行によって各弟子の人生をいかに築いていくか,以下のようなポリシーを策定し,実行の運びとなりました。
と申しますのも,華やかな相撲界ですが,番付をご覧いただけば瞭然のとおり,大銀杏を結ってTVで取り組みの映る十両以上の「関取」は,全力士の1割未満(およそ700余名中70名)にすぎません。つまり,多くの弟子は,そうした華やかな活躍を見せることなく,志半ばにして引退していくのが現実です。
しかし,本当に「志半ば」なのでしょうか。全身全霊を賭けて毎日毎日取り組んだ相撲道修行には,自他ともに,もうやるだけのことはやった,と納得できる時があるようにも思います。
そこで荒汐部屋では,その「納得できる時」を,これまでの経験から入門後5年と定め,これを経た弟子には,まず,これからの人生についての考えが以下のいずれに近いか,ヒアリングを行います。
ここで1.を選んだ弟子には,5年勤続を表彰し,引き続き相撲道への精進してもらいます。
2.を選んだ弟子には,1年間の考慮期間を設け,相撲界以外での活躍の場を部屋とともに考えていきます。その上で1年以内に,上記1.か3.を選択してもらいます。
3.を選んだ弟子は,5年勤続表彰のうえで,引退とします。
そして,上で,2.・3.を選んだ弟子には,引退後の再就職に向け,荒汐部屋は全面的にサポートします。ここで言う「サポート」とは,
といったものです。
一見するとすこぶる魅力的な話ですが,実際,5年間相撲道修行をやり遂げることは,並大抵ではありません。だからこそ,その修行を5年間やり遂げた弟子には,これだけの支援をして余りあるだけの人格・社会的価値を備えた人材として,何としても大きくはばたいてもらいたい,そうして5年間の修行の成果を社会に恩返ししてもらえれば,と願っております。
さて,一方,はじめの入門時には,荒汐部屋・弟子本人・本人の親権者等保証人の3者間において,顧問弁護士作成の入門誓約書を取り交わします。この誓約書は,相撲道ならびに一般社会通念に著しくもとる行いのあった場合,荒汐は師弟関係を破棄することができることを定めたもの,つまりいわば破門条件の合意書です。
財団法人日本相撲協会所属の力士(力士養成員)としては同寄附行為の定めるところによりますが,荒汐部屋の一員としてはこの誓約書によって師弟関係を定めます。なお,師匠側に不実がないかについても,複数の外部有識者による弟子への聞き取りによって,定期的に確認されます。
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このように,このポリシーは,荒汐部屋への入門によって,荒汐の弟子として相撲道への精進を誓い,修行によってその人生を逞しくし,そしてその修行を修めたものには社会で存分に活躍してもらう,そんな相撲を通じた人生構築にむけ,荒汐部屋としてできる諸策を体系化したものです。
退路を断って入門される心意気こそが,正に必死の稽古となり,強く輝く力士へと至る一番の原動力であることは言を待ちません。しかし,それでもやはり,修行をやり遂げたとき途方に暮れることなく希望をもって清々しく引退する,そんなゴールが見えているならなお一層,今日の稽古に,今日の稽古に,集中して取り組むことができるのではないでしょうか。
荒汐部屋のこのポリシーが,入門をお考えの皆さんの一助となれば幸いです。